2012年03月14日

地震雷火事親父の語源は地震雷火事大山風(おおやまじ)か?

「地震雷火事親父」の語源は「地震雷火事大山風(おおやまじ)」が転じたものである、という話。大山風とは台風のことである、といい、当初は災害ばかり並んでいたそうな。
都市伝説のような話であるが、かなり流布している。
少なくともyahoo知恵袋では流布している者がいるようだ。

KOF(The King of Fighters)ではこのネタが二重に使われているらしい。
日本チームの草薙京が炎、二階堂紅丸が雷、大門五郎が地震、そして京の親父の草薙柴舟で「地震雷火事親父」が揃っていて、
オロチ四天王は、乾いた大地の社、荒れ狂う稲光のシェルミー、炎の宿命のクリス、吹き荒ぶ風のゲーニッツ、で「地震雷火事大山風」
なんだそうな。

閑話休題。

しかし、この「地震雷火事大山風」あるいは「地震雷火事大山嵐」が語源、というのはガセである、という説もネットに転がっている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ノート:親父


こういうときは、我が国が誇る日本語辞典「日本国語大辞典(通称:にっこく)」に頼るのが一番。
市の中央図書館に行けばあるのは知っているんだけど、
調べたところ、
ジャパンナレッジ・プラス
http://www.jkn21.com/
にて、210円で一日ネットで検索し放題とのことなので早速申し込んでみる。

まずは「地震雷火事親父」で検索ゴー。

>「地震(じしん)雷(かみなり)火事(かじ)親父(おやじ)」
>世の中で恐ろしいものを順に並べた表現。
コピーライトマークShogakukan Inc.

……え?これだけ?

出典として、太宰治の「思ひ出」に出てくることが挙げられている。
初出は1933年で、青空文庫にも掲載されている。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1574_15508.html
によると、
しかし私が綴方へ眞實を書き込むと必ずよくない結果が起つたのである。
父母が私を愛して呉れないといふ不平を書き綴つたときには、受持訓導に教員室へ呼ばれて叱られた。「もし戰爭が起つたなら。」といふ題を與へられて、地震雷火事親爺、それ以上に怖い戰爭が起つたなら先づ山の中へでも逃げ込まう、逃げるついでに先生をも誘はう、先生も人間、僕も人間、いくさの怖いのは同じであらう、と書いた。


この表現自体を太宰が考えたのか、それとももっと昔から使われていたのか、これだけではわからない。
というわけで青空文庫内にどういう記録があるか
「地震雷火事 site:aozora.gr.jp」でgoogle検索してみる。「親父」については「親爺」などと表記揺れがあるので省いてみた。

もっと古いのが見つかった。
夏目漱石「人生」
冒頭にいきなり登場する。
空(くう)を劃(くわく)して居る之(これ)を物といひ、時に沿うて起る之を事といふ、事物を離れて心なく、心を離れて事物なし、故に事物の変遷推移を名づけて人生といふ、猶(なほ)麕身(きんしん)牛尾(ぎうび)馬蹄(ばてい)のものを捉へて麟(きりん)といふが如し、かく定義を下せば、頗(すこぶ)る六つかしけれど、是を平仮名(ひらがな)にて翻訳すれば、先づ地震、雷、火事、爺(おやぢ)の怖きを悟り、砂糖と塩の区別を知り、恋の重荷義理の柵(しがらみ)抔(など)いふ意味を合点(がてん)し、………………

初出は明治二十九年十月、第五高等学校『竜南会雑誌』とのことであるので、1896年。

肩が凝るという表現を作り出した漱石なので、彼の作という考え方もできるが、文章の前後を見る限り古典表現を集めたように見える。
従って、この表現は既に明治期にはことわざとして確立していた可能性が高い。


もし「大山風」又は「大山嵐」が転じて親父に転じたのが江戸以前だとすれば、追跡はかなり困難になる。


そこでアプローチを変えてみた。
「大山風or大山嵐(おおやまじ)」という表現自体があるのか否か。

再び日本国語大辞典に頼る。
「大山風」「大山嵐」「おおやまじ」いずれもヒット件数ゼロ。
少なくとも近代以前にそんな言葉が確認されていないということになる。

この時点で、「おおやまじ」が転じた、説はほぼデマである可能性を確信する。

もう少し調べて見る。
「山風(やまじ)」という単語はヒットする。

>夏から秋にかけて、山から吹きおろす風。
夏や秋の季語であるそうな。
出典として、南北朝頃の古今秘註抄が挙がっている。
>「やまし〈略〉異説にはやましとて風の名なり。たつみのすみの巳の方よりふくかぜと申せども」

wikipediaの親父のノートで討議されていたように、台風の意味は無いようだ。
ただし、日本国語大辞典はさすがであり、方言として「山風(やまじ)」が持つ意味も列挙されている。
島根の方言としては「山の方から吹く風」の意味であるが、
香川の方言としては「南よりの暴風」の意味であり、
香川三豊の方言としては「つむじ風」の意味であり、
安芸の方言としては「海岸一帯に高潮の押し寄せる風」の意味であり、
その後、全国各地の方言として、東風だったり南風だったり南南西の風だったり、
つまるところ、全国山から吹く風にこの名前が割り当てられていたようだ。

いずれにせよ、台風の意味で使われたという例は確認できない。
漢字の意味からしても、台風は山の風ではないのである意味当然といえば当然の結論である。


よって、今回の結論。
「地震雷火事親父」は「地震雷火事大山風」が語源であるという説の前提である、
「大山風(おおやまじ)」という単語が台風や災害をもたらす風の意味で使われていた事実が確認できない以上、
「地震雷火事親父」が「地震雷火事大山風」を語源とする説は少なくとも根拠がなく、
ガセネタである可能性が高い、と言える。


********************************
2012/05/19追記。
江戸東京博物館に行った折、展示物の中に
安政の大地震についての江戸の瓦版があり、そこに「地震雷火事親父」との記載があった。
少なくとも幕末の時点ではこの言葉は完成していたことが伺える。


一方、民俗学では古い記載があるとの指摘が下記のブログでされていた。
ソース不明ながら、民俗学については調べていないので、なお不確定である。
「地震・雷・火事・親父」考 - チーム森田の“天気で斬る!” - Yahoo!ブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/wth_map/59806156.html

***************************************
2013/12/08追記。
本記事は結構参照されているらしいのでもう少し証拠を足しておきます。

国立国会図書館のリファレンス協同データベースより、
香川県立図書館で調べられた事例が掲載されていますが
http://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000022726
やはりデマであるとの結論です。


ラベル:日本語 歴史
posted by 夢織時代 at 00:47| Comment(14) | TrackBack(0) | 徒然 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お天気キャスターの森田さんが広めてしまったデマですね。罪な人です
Posted by at 2012年10月23日 23:01
ネット以前のテレビが発端だとすると
解説を見ても載っていないわけですね。
テレビメディアの皆様にはそれほどの影響力を行使しているという事実を重く噛み締めて頂きたいところであります。
Posted by 夢織時代 at 2012年10月27日 18:12
詳しい記事をありがとうございます!
大変参考になりました
Posted by at 2013年01月10日 19:07
意外に読んで頂いているようでびっくりですこの記事。
こうして役に立ったと言って頂けるととても嬉しいです。こちらこそありがとうございました〜♪

このネタ、広まってるんですねえ。
Posted by 夢織時代 at 2013年01月13日 02:39
大変おもしろい考察ありがとうございます。

確かに根拠ないですね。僕も親父であってると思います。
ネットでおおやまじなんだと思った時、危うく誰かにいいそうになりました。大変為になる話ありがとうございました。

面白かったです。
Posted by heartland at 2013年01月19日 17:58
heartlandさん、ご感想ありがとうございます!

いや、私も最初きいたときは「へー、そうなのか」と思ってた口ですが、考えてみれば変な話でして。
ネットで飛び交ってる豆知識の中にはこういうのが結構な率であるんでしょうね。
できるだけ一次ソースに近いところを当たれ、というのは今も昔も基本のようです。

それにしても、古い日本語って今に活きてるんだと思いました。
Posted by 夢織時代 at 2013年01月21日 02:17
いやいや、これはしっくり来るから台風の方が良いのです。昔の人は天災は怖いものだと教えてくれていたのです。
それを、言葉遊びで、うちの親父は怖いと上手いことを言った。昔の駄洒落の方が、面白いと広まってしまった方がどう考えても腑に落ちる。親父が怖いと後世に伝えるより、台風の方が恐ろしいんだと言い伝える方がよほど役立つはず。どれも家を失うほどの破壊力ですから。
Posted by 大山嵐 at 2013年08月20日 23:22
ネタ的には大山嵐の方がしっくり来るようになってしまいましたね。
最初にこれを言いだした人のネタぢからは確かに凄いと言わざるを得ません。
今後50年100年でそっちの方が主流になっていくかも知れません。
日本語の変遷としては親父の衰退と環境の変化による台風の強化という二つの要素が絡んでなかなか面白いところです。

ま、それはそれとして。
これが語源だ、という説明が間違っていることについてはきっちりと事実を残して主張しておきたいと思うのですよ。
いかに「上手いこと言った」ネタであっても、過去を捏造するのはいかんよなあ、と思うわけです。
できるだけ一次ソースに近いところを当たれ、という意識でおります。
幸い、「地震雷火事大山嵐」で検索するとこのページがかなり上位にヒットしてくれるようになりましたので、
少しでもデマの拡散を食い止める役に立ってるかなあと思う次第です。
Posted by 夢織時代 at 2013年08月30日 01:18
この言葉が初耳だったので調べてみたところ、すぐこちらに行き当たったのは幸運でした。
台風は野分けという言葉もありましたし、ちょっとピンとこないと疑問を持って良かったです。昔からある言葉に、現代人が逆語呂合わせをするのはまた面白いですね。
Posted by こねこねねこ at 2013年10月06日 11:34
こねこねねこさん、ご感想ありがとうございます。
さすがにかなり広まりすぎてしまったようですが、検索してもらうと、結構上位にこのエントリが表示されるようになったおかげで、デマであるということを知らしめる役に立ってくれているようです。

語源は語源として、これだけ広まったのはやはり語呂の良さと「それっぽさ」が見事だったからでしょうねえ。
Posted by 夢織時代 at 2013年10月13日 00:22
たまたま観たクイズ番組の問題で初めてこの説を知りましたが、テレビではハッキリとこれが正解であるという風にしていました。
その後、辞書で調べてもそんな記述は一切載っていなかったので、検索したらここに辿り着きました。
自分も、自分で調べてみてこれは根拠の無いデマの可能性が高いと思いましたが、殆どの人はわざわざ辞書で調べたりせずに、そのままそれが正解の知識であると納得してしまうでしょう。
こういう間違ったテレビ番組の影響は大きいと思います。如何にテレビがいい加減な事を言っているか分かりました。
Posted by at 2013年12月08日 13:03
コメントありがとうございます。
テレビ番組のクイズといえば、以前は徹底して裏を取らねばならなかったと伝え聞いていましたが、現代の低予算外注ではデマの確認すらも怠る有様なのですか。
こまったものですねえ。

辞書に載っていないことを俺は知っている、という変な意識になってしまっているのかもしれませんけど。
Posted by 夢織時代 at 2013年12月08日 14:49
虎の門ニュース8時入り というネットニュース番組があるのですが (YouTube ニコニコ動画など)8/3の放送で半井小絵という女性(元NHKニュース7担当)が 「オヤジではなく大山嵐なんです」と生放送で発言してました。
また半井は気象予報士の大先輩の森田から聞いたと言い、森田という人は「ちゃんと文献調べたから本当だ、もし違ってたら番組に説明に来る」と言い放ったそうです
大変すばらしい番組なんですが、これがウソだとしたら、その話を外でした場合、自分こそがウソつきになってしまうとこでした。

このサイトが上位に来ていて見つけやすくて命拾いしてような気分です、真実はどっちかわかりませんが自分は親父説を信じたいと思います。本当にありがとうございました。

オオヤマジ説は森田が生きている限り、脈々と受け継がれ、またそこから拡散されてしまうのだと感じました。森田も「大先輩から聞いた」とか言ってまして、一体いつからだよ!もうコイツラ予報士の血統はどこかで断たないといけないのかもしれないですね
参考URLを張っておきます

http://blogs.yahoo.co.jp/wth_map/59806156.html
Posted by DHCシアター視聴者 at 2015年09月15日 18:01
ネットで広がったデマの1つですね。
地震雷火事親父の親父は元々親父で正しいです

Posted by at 2016年03月08日 22:06
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